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那覇地方裁判所 平成4年(行ウ)3号 判決 1996年3月13日

沖縄県沖縄市中央一丁目二四番八号

原告

仲本盛夫

右訴訟代理人弁護士

新垣勉

沖縄県沖縄市字美里一二三五番地

被告

沖縄税務署長 呉屋昌治

右指定代理人

松田昌

宮城安

阿部幸夫

宮里勝也

小澤正義

大城守男

桃原仁

原田勝治

呉屋育子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が、原告に対し、昭和六二年二月一三日付けでした、

1  昭和五八年分の原告の所得税の更正処分のうち、所得金額二五五万五一三〇円、納付すべき税額七万二六〇〇円を超える部分(ただし、審査裁決により一部取り消された部分を除く。)及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分

2  昭和五九年分の原告の所得税の更正処分のうち、所得金額二五四万一〇一〇円、納付すべき税額五万一〇〇〇円を超える部分(ただし、審査裁決により一部取り消された部分を除く。)及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分

3  昭和六〇年の原告の所得税の更正処分のうち、所得金額二五〇万八二〇〇円、納付すべき税額四万四七〇〇円を超える部分(ただし、審査裁決により一部取り消された部分を除く。)及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分

をいずれも取り消す。

二  被告が、原告に対し、平成元年三月二二日付けでした、

1  昭和六一年分の原告の所得税の更正処分のうち、所得金額二四〇万七九一六円、納付すべき税額三万一七〇〇円を超える部分(ただし、審査裁決により一部取り消された部分を除く。)及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分

2  昭和六二年の原告の所得税の更正処分のうち、所得金額二八〇万三六〇〇円、納付すべき税額四万四一〇〇円を超える部分(ただし、審査裁決により一部取り消された部分を除く。)及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分

をいずれも取り消す。

第二事実の概要

本件は、駐車場を経営する原告の昭和五八年分から昭和六二年分までの五年間の事業所得について、被告が、推計課税により各年分の申告所得額の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、原告が、推計課税の必要性及び合理性等を争って、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、沖縄県沖縄市中央一丁目において、立体駐車場以下「本件立体駐車場」という。)を経営するいわゆる白色申告者である。

2  原告は、昭和五八年分から昭和六二年分までの所得税について、別票一及び同二の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした。

3  被告は、原告に対し、昭和六二年二月一三日付けで、昭和五八年分から昭和六〇年分まで(以下「本件各係争前三年分」という。)の原告の所得について、別表一の「更正処分」欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をし、更に、平成元年三月二二日付けで、昭和六一年分及び昭和六二年分(以下「本件各係争後二年分」といい、本件各係争前三年分と併せて「本件各係争年分」ということがある。)の所得について、別表二の「更正処分」欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。

4  原告は、昭和六二年三月二五日、被告の本件各係争前三年分の各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に対し、異議を申し立てたところ、被告は、同年六月二四日付けで、右異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をし、そのころ原告に通知した。そこで、原告は、同年七月二〇日、右決定について、国税不服審判所に対し、審査請求をした。

5  また、原告は 平成元年五月一八日、本件各係争後二年分の各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に対し、異議を申し立てたところ、被告は、申立後三か月を経過しても異議決定をしなかったので、原告は、同年一一月六日に、国税不服審判所に対し、審査請求をした。

6  国税不服審判所長は、右4及び5の各審査請求を併合して審理をし、平成三年一二月一九日付けで、別表一及び二の「裁決」欄記載のとおり、昭和五八年分から昭和六一年分までの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に対する審査請求について一部取り消し、昭和六二年分のそれについて棄却する旨の裁決をし、同裁決書謄本は、そのころ原告に送達された(以下、右取消後の本件各係争年分についての各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を併せて「本件各更正処分等」という。)。

7  原告の本件各係争年分における不動産所得金額は、

(昭和五八年分) 八一万一六〇〇円

(昭和五九年分) 八一万一六〇〇円

(昭和六〇年分) 八一万七六〇〇円

(昭和六一年分) 八一万七六〇〇円

(昭和六二年分) 八一万七六〇〇円

である。

8  原告の本件各係争年分における事業所得の特別経費のうち、保守点検費及び地代の額は、いずれも別表三<5>の「保守点検費」欄、同<6>の「地代」欄各記載のとおりである。

二  争点

(原告の主張)

1 更正処分を行う要件の不存在

自主申告納税方式の下においては、納税者が納付すべき税額は、自主申告により法的に確定し、<1>その申告がない場合、<2>その申告に係る納税の計算が国税に関する法律の規定に従っていない場合、<3>その他該当税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合のいずれかに該当する場合に限り、税務署長等の更正処分によって確定するものである(国税通則法二四条)。

本件は、右<1>、<2>に該当せず、また、<3>の「その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合」とは、税務署の調査により自主申告納税額が誤ったものであることが明らかになったときを意味すると解すべきであるところ、本件においては、税務署が所得金額を実額で把握できなかっただけで、原告の申告納税額が誤りであったことを指摘するものではないから、<3>の要件にも該当しない。

したがって、本件各更正処分等は、更正処分をすべき要件を充足していないにもかかわらず行われたものであり、推計課税の必要性、合理性の内容に立ち入るまでもなく、本件各更正処分等は違法であり、取り消されるべきである。

2 推計課税の必要性の不存在

原告は、本件各係争年分の売上帳、経費等の所得金額を証する帳簿類を有しており、被告が実額課税をし得る場合に当たるから、推計課税の必要性はない。

3 電気料金率による推計課税の不合理性

被告は、本件各係争年分の間に青色申告をした駐車場経営者の中から類似同業者を抽出し、その平均駐車場収入金額と使用電気金額が正比例することを前提として、原告の使用電気料金額を基礎にして、これを類似同業者の平均使用電気料金金額を平均駐車場収入金額で除して算出した電気料金率で除して、原告の本件各係争年分の事業所得の駐車場収入金額を推計しているところ、右の電気料金率による推計方法は、以下のとおり不合理であり、違法である。

(一) 業務用使用電力の実態について

原告は、本件各係争年分において、業務用電力の一部を、駐車場に隣接する原告所有の三階建建物(以下「駐車場付随建物」という。)の一室に使用しており、業務用電力が、専ら本件立体駐車場設備の稼働にのみ使用されたことを前提にした被告の推計は、その前提において事実誤認がある。

(二) 類似同業者の抽出について

駐車料金は、基本料金及び延長料金の各単価及び駐車時間の組合せによって定まるものであり、電気料金率による推計が合理的なものであるためには、<1>駐車機の空台を効率的に呼び出す所要時間と一駐車機の時間当たりの使用電気量が近似していること、<2>駐車料金の価格が同一であること、<3>利用者の駐車利用の形態(長時間駐車と短時間駐車の多少)が近似していること等の前提条件が必要である。

しかるに被告は、右条件を無視して、単に立体駐車場という抽象的な基準のみで類似同業者を独断的に抽出し、原告との類似性を具体的に検討しないまま、安易に推計課税を行っている。

また、原告の駐車機は、立体循環の立体駐車機式であり、駐車機内に駐車車両を駐車させるタイプのものであるところ、各階まで駐車機によって昇降させ、車そのものは駐車機内に駐車させるのではなく、固定された各階の駐車場に駐車させるタイプの業者は、類似同業者から除外するべきである。

また、被告が、所得税の推計に用いるために抽出した類似同業者の中には、いわゆる倍半基準に違反しているものがある。

(三) 推計方法の選択について

被告が推計に用いた資料と同じ資料を用いて従業員一人当たりの収入金額を基準として推計した場合、被告の主張する電気料金率による推計額と、大幅な違いが出てくるところ(別表九のとおり)、被告が、本件において、電気料金率による推計を行い、従業員数による推計を行わない合理的理由がない。

(被告の主張)

1 更正処分を行う要件

推計課税は、国税通則法二四条にいう、「税額がその調査したところと異なるとき」の調査の一方法として認められたものであり、推計課税の必要性及び合理性が認められる場合に、推計の結果、納税者の自主申告納税額と推計納税額が異なっているときに、推計課税による更正処分が行われるのであるから、原告の主張は失当である。

2 推計の必要性について

原告は、被告の所部係官が本件各係争年分の税務調査のため、原告宅を訪れ、原告に対して調査協力を求めたのに対し、原告が沖縄民主商工会(以下「民商」という。)事務局員らを同席させた上、同人らと共に、所部係官に対し、執拗に調査理由の開示を要求するなどして、調査に対し非協力的態度に終始したため、所部係官は、原告の帳簿書類等の調査を行うことができず、本件各係争年分の所得金額を実額で把握すのことができなかったのであるから、本件は、納税者が課税庁の行う税務調査に非協力的であることにより、実額の把握が不可能又は著しく困難である場合に該当し、推計の必要性が認められる。

また、原告の収入に関する帳簿類は、全くの虚偽であり、原処分当時において、被告の所部係官による原告に対する質問や、帳簿書類の提示による調査では、原告の所得を実額で把握することはできなかったのであるから、帳簿書類類の記載内容が不正確であることにより、実額の把握が不可能又は著しく困難である場合に該当するから、この点からも推計課税の必要性が認められる。

3 推計の合理性について

本件において、被告は、原告の業務用電力の使用料金を推計の基礎とし、類似同業者の業務用電力の使用料金の駐車場収入金額に対する比率をもって、原告の業務電力の使用料金を除して原告の本件各係争年分の駐車場収入金額を算出した。

そして、右駐車場収入金額を基礎として、類似同業者の平均経費率及び人件費率の各平均値を用いて、原告の一般経費及び人件費の額を算出し、それを原告の駐車場収入金額から控除し、それから実額計算可能な保守点検費、地代及び建物減価償却費の額を控除することにより、原告の所得金額を算出したもので、原告のような立体駐車場を営む者について、業務用電力の使用料金を用いて所得金額を推計する方法は合理的であり、また、類似同業者の抽出過程は合理的に行われたものであるから、右推計方法に違法はない。

なお、原告の主張する従業員一人当たりの収入による推計方法は、被告の採用しないところであるが、原告において、右推計方法の合理性についての主張、立証はなく、かつ、右推計方法を用いて計算した場合、原告の本件各係争年分の事業所得の差が二倍ないし三倍となり、右推計方法が合理性を有しないことは明らかである。

また、原告は、昭和五八年一月から九月までの間、原告の駐車場収入の一部を沖縄県労働金庫コザ支店の借用名義(赤嶺義徳名義)の口座に入金していると認められるところ、右期間における右口座及び原告名義の口座への入金額に対する同期間における原告の使用した業務用電力の使用料金の比率及びその平均(三・五パーセント)を算出し、原告の本件各係争年分の電気料金を右三・五三パーセントで除して算出した本件各係争年分の収入金額に基づいて、被告の前記主張に係る推計の計算方法と同様に計算した原告の事業所得金額及び原告主張の経費を前提に計算した原告の事業所得金額は、いずれも本件各処分を上回るものであり、この点からも、被告の推計には合理性がある。

第三争点に対する判断

一  争点1(更正の要件)について

所得税について納付すべき税額の確定の手続については、国税通則法一六条一項一号の申告納税方式が採られており、納税者に対して適正な納税額の申告義務を課して納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則としつつ、租税の公平確実な賦課徴収を図るため、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長等の調査したところと異なる場合に限り、税務署長等の処分により確定することとされている(同法二四条)。

そして、課税庁が右調査を行えない場合に課税できないことは、税負担公平の観点から到底許されるものではなく、そこで、一定の要件の下に右調査の方法として推計課税という課税方式が認められている。

そうであれば、右一定の要件すなわち推計の必要性及び合理性が認められ、右推計によって得られた結果が申告に係る税額と異なる場合に、課税庁が、調査したところと異なるとして、これに基づいて更正処分をし得ることはいうまでもない。

したがって、申告税額が誤りであることが明らかなことを推計課税の要件とする原告の主張は、独自の見解であり、採用できない。

二  争点2(推計課税の必要性)について

1  乙一ないし一六号証、二三ないし二七号証、八四号証、証人屋良朝雄の証言、原告本人尋問の結果(一、二回)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件各係争年以前の状況

(1) 原告は、昭和五二年ごろから民商に加入し、昭和五四年ころから、沖縄市中央一丁目において、本件立体駐車場を経営している。

(2) 被告所部係官二名は、昭和五七年一一月二日、同月一二日、同月一七日及び同月一八日の四回にわたり、原告の昭和五四年分から昭和五六年分までの事業所得について調査するため、本件立体駐車場を訪れ、原告に税務調査に協力するよう要請した。

(3) 原告は、調査担当係官が来訪した際、民商事務局員らを呼び、民商の会員が同席しなければ調査に応じないと主張し、これに対し、右調査担当係官は、守秘義務等を理由として、調査における第三者の立会いを認めなかったため、原告の帳簿等の開示がされず、結局、被告において、原告の事業所得の調査をすることができなかった。

(二) 本件各係争前三年分の調査状況

(1) 原告は、別表一の「確定申告」欄記載の各年月日に、被告に対し、本件各係争前三年分の所得について、それぞれ同欄記載のとおり 確定申告をした。

(2) 被告は、原告の右確定申告の内容から、本件立体駐車場が商店街に近く、立地条件が良好であるにもかかわらず、原告の申告所得金額が同業者と比較して少なかったこと、前記調査の際、調査担当係官が調査協力を求めても、原告が調査に応じず、調査に同席した民商事務局員らの介入もあり、調査が遂げられなかったことなどから、原告の申告に係る事業所得金額が過少ではないかと疑問を持ち、これが適正なものであるかどうかを確認するため、その所部係官に対し、本件各係争前三年分の所得につき調査を命じた。

(3) 被告の所部係官である国税調査官屋良朝雄及び大蔵事務官平良邦利(以下「屋良調査官ら」という。)は、昭和六一九月二二日、原告の本件各係争前三年分の税務調査を行うため、本件立体駐車場を訪れたが、原告が不在であったため、原告の従業員に対し、次回の訪問日を伝え、原告の都合が悪ければ事前に連絡するよう依頼した。

(4) その後、原告から何の連絡もなかったため、屋良調査官らは、同年一〇月六日、再度、本件立体駐車場を訪れたが、原告は不在であった。そこで、屋良調査官らは、原告の従業員に対し、同年一一月一一日に原告に会いたい旨の伝言を依頼し、同日、右駐車場を訪問したが、この日も原告が不在であったため、原告の従業員に対し、翌日までに原告から電話連絡をもらいたい旨の伝言を依頼した。

(5) 同月一八日になって、原告から屋良調査官に対し連絡があり、翌一九日午後三時三〇分から原告の自宅で面会することとなり、屋良調査官らは、翌一九日午後三時三〇分ころ、本件立体駐車場を訪れ、駐車場付随建物三階の原告の自宅の居間に案内された。

右居間には、民商の事務局員外三名が待機しており、屋良調査官らが、原告に対し、身分証明書及び質問検査証を提示し、所得税の調査のため来たことを告げて、調査に協力するよう依頼したところ、原告らは、被告に対し、「調査をする理由は何か。」と調査理由の開示を要求した。

屋良調査官らは、原告に対し、調査に関係のない第三者を退席させた上、帳簿を提示して調査に協力するよう要請したが、原告らは、具体的な調査理由を開示すること、民商の事務局員らを同席させることを強く要求した。

これに対し、屋良調査官は、「申告した所得額の確認をするためである。」と答えると、原告らは、「そんなのは理由にならない。」、「前も斉藤と宮良が来たが、こちらが怒鳴ったら帰った。」、「理由もなく調査するというのはどういうことか。」と申し立てた。

屋良調査官は、原告に対し、調査に関係のない第三者を退席せた上、帳簿を提示して、調査に協力するよう要請したが、原告、民商事務局員らとともに、屋良調査官に対し、「調査する理由何か。」、「理由の分からない調査はさせない。」、「我々は団結している。裁判で争う。」等申立て、調査理由の開示を執拗に要求した。

屋良調査官らは、なおも、原告に対し、調査に来たのは原告が申告した所得額の確認である旨説明した上、調査に関係のない第三者を退席させて、調査に協力するよう説得したが、原告は、本件各係争前三年分に関する帳簿らしきものを示すものの、「あなた方がどう言おうが、調査に応じるわけにはいかない、この帳簿を見せるわけにはいかない。」と申し立て、調査を拒否する態度を変えなかった。

屋良調査官らは、原告に対し、第三者を退席させて調査に応じるよう約三〇分間説得したが、依然原告の調査を拒否する態度が変わらなかったので、調査を断念して原告宅を辞去した。

(6) 被告は、原告が、前回の所得税調査の際にも、民商の事務局員らを同席させ、調査に協力しなかったこと、今回の調査の際にもなかなか面会できず、また、調査に対して非協力的な態度をとったこと等から、本件各係争前三年分について、原告の協力を得て所得を実額で把握することは困難であると判断し、推計の方法により課税することとした。

(三) 本件各係争後二年分の調査状況

(1) 原告は、別表二の「確定申告」欄記載の各年月日に、被告に対し、本件各係争後二年分の事業所得について、それぞれ同欄記載のとおり確定申告をした。

(2) 被告は、原告が提出した本件各係争後二年分の確定申告書に営業所得及び不動産所得の金額が記載されているのみで、それぞれその収入金額及び必要経費の各欄が空欄であり、所得金額の計算内容が不明であった上、前回の調査による所得金額と比較して、本件各係争後二年分の申告所得金額が極端に低かったことから、原告の申告所得金額に疑問を持ち、これが適正なものかどうかを確認するため、その所部係官に対し、本件各係争後二年分の所得につき、調査を命じた。

(3) 被告の所部係官である大蔵事務官桑原庸恭及び大蔵事務官仲地祐三(以下「桑原事務官ら」という。)は、昭和六三年一一月一日午前一〇時二〇分ころ、本件各係争後二年分の所得税調査を行うため、本件立体駐車場を訪れ、その場にいた原告に対し、各々身分証明書及び質問検査証を提示して、所得税の確認調査に来たことを告げ、調査協力を依頼したところ、原告は、「前回の調査の決着がつかないのに、また調査をするのか。」、「不動産所得も申告しているが、営業だけの調査なのか。」などと述べ、更に、「民商に加入しているので、個人プレーはできない。民商と相談してから調査の日は連絡する。今日は忙しいので後日にしてくれ。」として、当日の調査を拒否した。

(4) その後、原告から、「一一月三〇日の午後三時に来てくれ。」との連絡があったことから、桑原事務官らは、原告の指定した同日午後三時に、駐車場付随の三階建物にあった原告の自宅を訪れたところ、その居間には、原告のほか、民商事務局員外六名が待機していた。

桑原事務官らは、原告に対し、身分証明書及び質問検査証を提示して、所得税の確認調査のため来た旨を告げ、守秘義務の問題があるので、原告以外の第三者を退席させて、調査に協力するよう要請した。

これに対し、原告は、民商会員らとともに、桑原事務官らに対し、「なぜ立会いを認めない。」、「前回の調査の決着もついてない。」、「申告額が正しい金額なんだ。」等と大声で言い立て、更に「調査対象になったのは所得を疑っているからだろう。選定理由を明らかにしなさい。」、「どの部分を調査したいのか具体的に示しなさい。」などと、調査理由及び具体的な調査部分の特定を執拗に要求し、調査に非協力的な態度を示した。

そこで、桑原事務官は、原告に対し、調査に関係ない第三者を退席させた上、帳簿を提示して調査に協力するよう重ねて要請したが、原告は他の民商会員らとともに、「都合のいいときだけ守秘義務使うんじゃない。」、「俺たちは、仲間だから構わないと言っている。」等と申し立て、帳簿らしきものの存在は示唆するものの、調査理由の開示を執拗に要求し、第三者の退席要求には応じなかった。

桑原事務官らは、原告に対し、調査に応じるように約四〇分間説得したが、調査を拒否する強い態度は変わらず、これ以上の進展は望めないと判断して、原告宅を辞去した。

(5) 被告は、原告が、過去の調査においても、民商会員らを同席させて調査を拒否したこと、今回の調査においても、多数の民商事務局員らを同席させ、調査理由の開示を執拗に要求して、全く調査に応じる態度を見せなかったことなどから、これ以上原告と面会して説得しても、調査に応じるとは考えられなかったため、本件各係争後二年分について、原告の所得を実額で把握することが困難であると判断し、推計の方法により課税することとした。

(四) なお、被告の調査の結果、原告は、本件立体駐車場収入の一部を、沖縄県労働金庫コザ支店の赤嶺義徳(原告の義父)名義の口座に入金し、所得金額の秘匿を図っていた事実、更に、原告は、駐車場以外に営んでいた事業の売上を、他人名義で右労働金庫に入金していた事実が判明した。また、原告本人尋問の結果、原告には、自己申告に係る不動産収入以外にも、不動産収入があることが明らかになった。

また、原告は、本件当時他人名義で株取引をしており、これによって得た収入を隠すため、分散して預金していた旨主張している。

2  以上の事実をもとに、本件各処分における推計課税の必要性について検討する。

推計課税は、課税標準である所得金額を、直接資料に基づいて実額で把握することが不可能もしくは困難な場合に、実額が明らかでないことを理由として課税を放棄することは、税負担公平の観点から適当でないことから、実額課税の代替手段として認められるものである。

したがって、推計課税を行うためには、納税義務者が帳簿書類等を備えつけていなかったり、備えつけていても、その記載内容が不正確であったり、納税義務者が課税庁の行う税務調査に対して協力しないため、直接資料が入手できないなど、所得金額を実額で把握することが不可能又は著しく困難な事情があるときにはじめてその必要性が認められるものである。

本件においては、前記認定のとおり、原告は、本件各係争前三年分及び本件各係争後二年分のいずれの被告所部係官の調査の際にも、調査期日において、民商事務局員らを立ち会わせた上、右係官に対し、具体的な調査理由を開示することを執拗に要求し、右係官が、第三者の退席を再三にわたり要請したにもかかわらず、これに応じなかったことから、右係官は、原告が非協力的で、調査を拒否していると判断して、調査を打ち切ったものである。

ところで、当該税額が税務署長等の調査をしたところと異なる場合においては、税務署長等による更正等の一定の処分がされるべきことが法令上規定され、そのための事実認定と判断が要求される事項があり、これらの事項については、その認定判断に必要な範囲内で職権による調査が行われることは法の当然の許容すにところであり、所得税法二三四条一項は、国税庁、国税局又は税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、同条一項各号所定の者に対して、質問し又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項の関連性を有する物件の検査を行う権限を認めている。

本件においては、被告は、本件各係争年分の申告所得金額の計算内容が不明確であり、右所得金額が原告の同業者と比較して過少である疑いがあったことから、所得を確認する必要があり、場合によっては更正を行う必要がすると判断して、原告に対する質問検査による調査を行うこととしたものであり、この点について違法はない。

ところで、右の場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目についは、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられており、調査理由を相手方に開示するかどうか、開示するとしてどの程度開示するか、あるいは、調査の際民商の関係者について立会いを認めるかどうかについても、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される。

これを本件についてみると、屋良調査官らは、原告からの調査理由の開示要求に対しては、確定申告の内容を行う旨告げており、また、調査の際には民商の関係者の立会いを認めないこととしたが、質問検査は公権力の行使を内容とする事実行為であり、これにより取引先である第三者の秘密事項が立会人に知れるのは適当でないこと、税理士の資格を持たない第三者の立会いは、その態様いかんによっては税理士法違反になる余地があること、納税者が自ら知悉している自己の経済的取引について質問検査を受けることによって、税務職員の一方的な指示に従わされる可能性が高いとはいえず、一般の第三者の立会権を認めた規定も存しないこと等を考慮すると、屋良調査官らがとった質問検査に関する前記の措置は、社会通念上相当な限度にとどまり、その合理的な選択の範囲内になる適法なものである。したがって、原告らは、右の措置を受忍する義務があるのであり、それにもかかわらず、右の措置を受け入れることなく、被告の行う調査に協力しなかったものであり、そのため、被告は、本件各係争年分の原告の所得を直接資料により実額調査することができなかったのであるから、本件において推計の必要性が認められることは明らかである。

二  争点2(推計課税の合理性)

1  推計課税は、前記のとおり、課税標準を実額で把握することが困難又は不可能な場合に、税負担公平の観点から、実額課税の代替的手段として、合理的な推計の方法で課税標準を算出することを課税庁に許容した実体法上の制度と解するのが相当である。

そうであれば、推計課税は、実体法上、実額課税とは別に課税庁に所得の算出を許す行為規範を定めたものであって、真実の所得を事実上の推定によって認定するものではないから、その推計の結果は、真実の所得と厳密な意味で合致している必要はなく、推計の方法に、実額課税に代わる方式にふさわしいといい得る程度の合理性があれば足りるというべきである。

2  被告が本件において主張する推計方法は、業務用電力の使用料金を推計の基礎とし、類似同業者の業務用電力料金の駐車場収入金額に対する比率で、原告の業務用電力の使用料金を除して、原告の本件各係争年分の駐車場収入金額を算出し、右駐車場収入金額を基礎として、類似同業者の平均経費率及び人件費率の各平均値を用いて、原告の一般経費額の並びに人件費の額を算出して、駐車場収入金額から控除し、それから実額計算可能な保守点検費、地代及び建物減価償却費の額を控除して、原告の事業所得金額を算出したものである。

そして、乙六ないし一五号証、三四号証の一、二、七三号証、証人屋良朝雄の証言及び弁論の全趣旨 によれば、被告の主張する推計方法による本件各係争年分の事業所得の算出過程及びその金額は、以下のとおりであることが認められる。

(一) 駐車場収入金額

原告の本件各係争年分における駐車場収入金額は、別表三<1>の「駐車場収入金額」欄記載のとおりである。いずれも原告における推計の基礎となる業務用電力料金(同表<2>「推計の基礎の電力料金」欄記載の金額、沖縄電力具志川支店に対する調査の結果に基づき算出されたもの)を、類似同業者の業務用電力料金の駐車場収入金額に対する比率(同欄に記載の平均率等)で除し、算出したものである。

(二) 一般経費

原告の本件係争年分における一般経費の金額は、別表三<3>の「一般経費金額計」欄記載のとおりである。いずれも前記認定に係る原告の駐車場収入金額に、類似同業者の平均一般経費率(類似同業者における駐車場収入金額に対する一般経費金額の割合の平均値)を乗じて算出したものである。

(三) 特別経費

(1) 人件費

原告の本件各係争年分における人件費の金額は、別表三<4>の「給料・賃金」欄記載のとおりであり、原告の従業員数二人(当事者間に争いがない。)に、平均人件費(類似同業者の人件費の総額を従業員の数で除した一人当たりの人件費の金額)を乗じて算出したものである。

(2) 保守点検費及び地代

原告の本件係争年分における保守点検費及び地代の金額は、別表三<5>の「保守点検費」欄、<6>の「地代」欄各記載のとおりである(当事者間に争いがない。)。

(3) 減価償却費

原告の本件各係争年分における減価償却費の金額は、別表三<7>の「減価償却費」欄記載のとおりである。

すなわち、原告は、本件立体駐車場用建物、機械式駐車場設備及び駐車場付随建物のうち、立体駐車場用建物の一階出入口部分(駐車場付随建物のうち、二階部分は貸室、三階部分は原告の住宅用として使用されており、原告の事業との関連性が認められない。)の取得に際して、租税特別措置法三三条の六第一項及び同法施行令(昭和五四年政令第七一号による改正前のもの。以下同じ。)二二条の六第三項《収用交換等により取得した代替資産等の取得価額の計算》の規定する代替資産等の規定の適用を受けるため、減価償却費の計算の基礎となる取得価額を算出する際に、各建物及び駐車設備の買換資産の価額の合計額に、各建物及び駐車設備の価額が占める割合を算出し、その割合を全体の減価償却費の計算の基礎となる取得価額に乗じて、それぞれの減価償却費の計算の基礎となる取得価額が計算される。そして、各資産の減価償却費の額の計算の基礎となる取得価額を基に、各年の償却方法を所得税法四九条一項及び同法施行令一二五条一項一号により定額法を適用して、各資産の法定耐用年数(減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表一、同二により、機械式駐車場設備・一五年、立体駐車場用建物・三五年、駐車場付随建物・四五年とした。)に対する償却率(同省令別表九による。)を適用して減価償却費が算出された(その算出過程及び金額は、別表七及び八記載のとおり)。

(四) 前記駐車場収入金額から、一般経費及び特別経費を控除した金額が、被告が本件訴訟において主張する原告の本件各係争年分の事業所得金額であり、その金額は、別表三の「事業所得金額」欄記載のとおり、

(昭和五八年分) 一二九三万五六二四円

(昭和五九年分) 一五四六万〇六〇一円

(昭和六〇年分) 一四〇〇万二〇二五円

(昭和六一年分) 一八五五万二〇五二円

(昭和六二年分) 一九三四万九八七九円

となり、右金額は、本件各更正処分等において認定された原告の事業所得の金額である、

(昭和五八年分) 一二九三万五六二四円

(昭和五九年分) 一五四六万〇六〇一円

(昭和六〇年分) 一四〇〇万二〇二五円

(昭和六一年分) 一八五五万二〇五二円

(昭和六二年分) 一七七九万五二四二円

と同額又はこれを上回ることが認められる。

3  原告の本件各係争年分における不動産所得金額については、当事者間に争いがない。

4  したがって、被告主張に係る本件推計方法に前記合理性が認められれば、本件各更正処分等において、原告の事業所得金額(その他の所得としては不動産所得しかないこと、また、右所得税額については、当事者間に争いがない。)ひいては所得税額を過大に認定した違法はないことになり、同様に、本件各係争年分における各過少申告加算税賦課決定もまた適法であるということができる。

5  そこで、以下、被告主張の推計方法に合理性があるか否かを検討する。

(一) 甲一号証の一ないし三、七、一七、二〇、二一、乙一二ないし一五号証、三五号証の一ないし五、三八ないし五五号証、証人屋良朝雄の証言、原告本人尋問の結果(一、二回)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 沖縄市は、沖縄県中部地域の中核都市であり、昭和五八年から六二年にかけて、人口は年々増加し、自動車の登録台数も増加している。昭和五六年度、昭和六〇年度、昭和六三年度に、沖縄県が実施した買物動向調査によれば、沖縄市は、周辺都市からの買物客を吸収し、本件立体駐車場の位置する地域が、最も買物客を集めている。

また、同調査によれば、沖縄市の住民は、那覇市の住民と比較して、交通手段として自家用車を利用する者が多く、地域商店街の経営者や、買物客等からも、駐車場に対する需要が大きい地域であることが認められる。

(2) 原告は、昭和五四年一月ころから、沖縄県沖縄市中央一丁目において、垂直循環方式の立体駐車場設備(石川島播磨重工製造のIHIタワーパーキング、乙二九号証)を用いて、立体駐車場を経営している。右垂直循環方式は、動力用電力を用いて電動機及び減速機等の諸機械設備を作動させてケージ(車両格納庫)を上下させ、車両を所定の場所に一定時間収納するものである。

(3) 原告が営業を開始したころには、原告の駐車場の近くには、センター駐車場という名称の平面駐車場があり、平成五年には、右センター駐車場の横に、一番街パーキングという名称の立体駐車場が営業を開始した。

(4) 被告は、前記のとおり、原告について、推計による方法で課税をするに際し、垂直循環方式の立体駐車場の特性にかんがみ、動力用電力の使用量が諸機械設備の稼働状況を直接的に示すものであり、本件立体駐車場の収益状況を把握する最重要な指標であると考え、業務用電力の使用料金を用いて原告の事業所得金額を推計する方法を採用することとした。

(5) そして、被告は、機械一台当たりの収容能力が本件立体駐車場のそれとほぼ一致する駐車機を使用して立体駐車場を営む同業者を抽出すべく調査したが、本件各係争年当時、原告の所在地である沖縄税務署管内においては、立体駐車場業者は存在しなかったため、那覇税務署管内において、立体駐車場を経営している業者を、本件各係争前三年分についてそれぞれ六件、本件各係争後二年分についてはそれぞれ七件抽出した。なお、右業者は、いずれも青色申告者である。

(6) そして、自家用区分ができない者、費用と収益の対応ができないもの等、推計課税に用いる類似同業者としてふさわしくない業者については除外し、選定した同業者のうち、法人はすべて貸しビル等兼業であったため、那覇税務署に提出された損益計算書等からは、立体駐車場営業の経費としての電気料金等の金額を直接把握することができないことから、立体駐車場収入と、それに対応する経費の他の兼業部分から明確に区分して、電気料金率を計算する必要があった。

(7) そこで、被告の所部係官は、抽出した同業者すべてを直接実地調査し、経理担当者に面談して聴取する方法により、右業者の本件各係争年分の立体駐車場収入とそれに対応する電気料金及びその他の経費を把握した。

(8) そして、被告は、本件訴訟において、原告における業務用電力料金を基準として、電気料金について、いわゆる倍半基準(電気料金額が、原告のそれの二分の一以上二倍以内であるもの。)に適合する同業者を、別表四ないし六記載のとおり、昭和五八年分、昭和六一年分及び昭和六二年分についてそれぞれ二件、昭和五九年分及び昭和六〇年分について、それぞれ三件最終的に抽出し、類似同業者として、同業者率の算出に用いた。

(二) 検討

(1) 推計方法の合理性について

前記のとおり、推計課税による推計の結果は、真実の所得と厳密な意味で合致している必要はなく、推計方法に、実額課税に代わる方式にふさわしいといい得る程度の合理性があれば足り、推計方法が合理的であるためには、税務署長が入手し得る推計の基礎事実に照らし、その推計方法が一応最良の方法と認められ、かつ、当該納税者の所得につき近似値を求める得ると認められる程度のものであれば足りるというべきである。

本件において、被告は、原告の電気料金を基準として、他の類似同業者の電気料金の比率を用いて原告の駐車場収入金額、一般経費及び人件費を算出しているが、原告は、前記認定のとおり、垂直循環方式の立体駐車場設備を使用して駐車場を経営しており、右設備は、動力用電力を使用して電動機及び減速機等の諸機械設備を作動させて、ケージ(車両格納庫)を移動させ、車両を所定の場所に収納するものであるから、動力用電力の使用量が、諸機械設備の稼働状況(駐車場を利用した車両の台数、ひいては本件立体駐車場の収益)を直接的に示す有効な指標となるといえる。

そうであれば、本件において、電気の使用量とほぼ対応関係にあると認められる電気料金を基礎として、類似同業者の電気料金に対する駐車場収入金額を電気料金率で表し、原告における業務用電気料金を右電気料金率で除することによって、本件立体駐車場の収入金額を推計することは、推計方法として十分合理性があり、右推計された収入金額に、類似同業者の平均経費率及び平均人件費率を乗じて、原告の立体駐車場経営に関する一般経費及び人件費を算出することもまた合理性があるといわなければならない。

(2) 業務用電力料金の使用について

原告は、被告が認定の基礎とした原告の電気料金には、原告が駐車場以外に使用したものも含まれている旨主張し、この点について、原告本人は、昭和五四年から昭和六二年ころまが駐車場付属建物の三階に六畳位の事務所を設け、その後事務所を屋上に増設したが、その間ずっと駐車場の電源から右事務所に電気を引いていた旨供述し、また、甲一号証の七ないし一五の写真によれば、現在、駐車場付属建物の屋上部分に駐車場事務所が設置され、駐車場の一階の配電盤から、配線して電気を引いていることがうかがえる。

しかしながら、右各写真は、いずれも平成六年四月一六日に撮影されたもので、右各写真をもって、直ちに、写真に写っている状況が本件各係争年当時の状況と同一であると認定することはできず、原告の右供述を裏付ける客観的な証拠はない。

そして、原告の右供述内容は、昭和五四年に住宅建物を新築した際には原告自らが三階の事務所部分に配線し、他方、屋上に事務所を増築した際には電気屋に配線を頼んだというもので、それ自体不自然で信用性に乏しいものであるといわざるを得ず、右原告の供述のみでは、本件各係争年当時、業務用電力の一部を駐車場事務所で使用していた事実を認めることはできない。

したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

(3) 類似同業者の抽出方法について

前記認定に係る抽出方法により抽出された類似同業者は、原告との間で、業種の同一性、事業場所、事業規模及び業態の近似性が認められるもので、しかも青色申告者であるから、その申告内容の正確性についても担保されており、また、同業者の抽出過程に被告の恣意が介在した事実は証拠上うかがわれない。したがって、右抽出された類似同業者の平均値である同業者率を用いて、原告の本件各係争年分に係る駐車場収入金額、一般経費及び人件費を推計したことには合理性が認められる。

原告は、被告が類似同業者を抽出する際に、駐車料金、駐車時間等の条件を無視して、立体駐車場の経営という抽象的な基準でのみ抽出しており、類似同業者との具体的な類似性の検討がされていない旨主張する。

しかしながら、一般に、類似同業者による平均同業者率を用いた推計においては、その性質上、同業者間に通常存在する程度の差異は、平均値の中に吸収、捨象されたものとして扱うこともやむを得ず、それらの差異が、当該平均値による推計を根本的に不当ならしめる程に顕著なものでない限り、これらを斟酌する必要はないと解すべきであり、原告の主張する右各条件は、同業者間に通常存在する程度の差異であるとして、類似同業者を抽出する過程で考慮しなかったとしても、抽出過程が違法であるということはできない。

本件においては、抽出された類似同業者が、いずれも原告と税務署の管内を異にしており、しかも、類似同業者数が、昭和五八年、昭和六一年及び昭和六二年が二件、昭和五九年及び昭和六〇年が三件と少数ではあるが、このことから直ちに推計の合理性を欠くことにはならないと解される。

すなわち、本件の場合、原告の所在する沖縄税務署と、類似同業者の所在する那覇税務署は、比較的近距離に位置しており、本件各係争年当時、沖縄税務署管内においては、原告以外に立体駐車場を経営する者がいなかったのであり、繁華街を有し、沖縄市と比較的経営環境が類似していると認められる那覇税務署管内において、資料の正確性が認められる青色申告者二件ないし三件をそれぞれ類似同業者として抽出し、推計したものである。このように、同一地区内に他の正確な資料を有する同業者がいない場合においては、他の地区において、青色申告者二件ないし三件をそれぞれ類似同業者として抽出し、推計することは、右類似同業者と原告との間において、業種の同一性、事業場所、事業規模及び業態の近似性が認められれば、推計の合理性を認めてよく、原告と類似同業者の間に、右にいう近似性を超えた厳格な類似性までは必要ではない。

よって、この点に関する原告の主張も採用できない。

なお、被告がいわゆる倍半基準に違反した者を類似同業者として抽出し、本件推計課税の基礎とした事実は、証拠上うかがわれない。

(4) 従業員を基準とする推計について

原告は、本件においては、電気料金率による推計ではなく、従業員数を基準とする推計を行うべきであり、別表九のとおり計算すべきである旨主張する。

しかしながら、電力で設備を稼働させる立体駐車場において、電気料金を基礎にして駐車場収入を推計するよりも、従業員数を基礎に駐車場収入を推計する方がより合理的であることをうかがわせる証拠はない。

また、右原告の計算によれば、本件各係争年分に係る原告の事業所得金額は、別表九のとおり、

(昭和五八年分) 七五八万七七七七円

(昭和五九年分) 七六七万五二四一円

(昭和六〇年分) 五六九万六一四四円

(昭和六一年分) 一五五一万一四五八円

(昭和六二年分) 一二八四万九〇七三円

と年度により大きな変動があるが、これは、前記認定のとおり、本件各係争年当時における駐車場の経営環境はかなり良好であったと認められること、本件各係争年の間、駐車場からの収益にあまり変化がなかったこと(原告本人の供述)と整合性を欠くことからしても、右従業員数を基準とする推計方法の合理性自体に疑問が怒る。

したがって、原告が主張する従業員数を基礎とした推計方法を考慮しても、被告の推計方法の合理性を否定することはできないので、この点に関する原告の主張もまた、採用できない。

第四結論

よって、原告の請求理由がないので、本件請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木村元昭 裁判官 近藤宏子 裁判官 村越一浩)

別表一

本件課税の経緯

<省略>

別表二

本件課税の経緯

<省略>

別表三

駐車場収入金額の推計による事業所得金額

<省略>

別表四

同業者比率表

<省略>

同業者比率表

<省略>

別表五

同業者比率表

<省略>

同業者比率表

<省略>

別表六

同業者比率表

<省略>

別表七

代替資産に引継がれる取得価額の計算

<省略>

別表八

減価償却費の額の計算

<省略>

<省略>

<省略>

別表九

<省略>

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